熱帯魚は3日かけて届く。卸の現場で見た、死着と包丁の話
先に結論
- お店に相談に来る人の悩みで多いのは、魚が死んでしまったことと、水草が枯れたことです。
- 卸の現場には、ネオンテトラが何千匹も入った袋が、発泡スチロールの箱で届きます。
- 古代魚や大型魚は、扱いが本当に大変です。
相談で多かったのは、魚の死と水草の枯れ
私が働いていたのは、総合ペットショップでした。熱帯魚のコーナーにも毎日お客さんが来ましたが、相談で圧倒的に多かったのは「魚が死んでしまった」と「水草が枯れてしまった」の2つです。
そもそも、水槽がしっかり安定している人は、あまりお店には来ません。来たとしても、入荷した魚を見に来るくらいです。逆に言えば、お店でよく顔を合わせるのは、水槽に何かしらの悩みがある人でした。悩んだときにすぐ相談できるのは、お店に通う大きな強みでもあります。
常連になるなら、つかず離れずの距離が長続きします。総合ペットショップは忙しいので、一人ひとりに長く時間をとれませんでした。そんな中で助かるのが、お店が落ち着いている平日の午前中に来てくれるお客さんで、ゆっくり話ができて、ちょうどいい息抜きにもなりました。
20年以上前のお店は、情報が書籍だけだった
ここまで書いたのは、20年以上前の話です。当時は、最新の情報を手に入れる方法が書籍しかなく、お客さんと話が食い違って、ちょっとした行き違いになることもよくありました。いまはスマホを見せながら「これです」と伝えられるので、その点は、ずっと楽になったと思います。
そのかわり、あのころは、新種の熱帯魚が毎月のように発見されて発表されていて、それを追いかけるのが、とにかくおもしろかったです。たとえば、ミクロラスボラ・ハナビは、2006年に発見されたミャンマーの小さな魚で、発見された当初は、1匹数千円の高値がつくほどの人気でした。
卸の現場は、とにかく大量
卸の仕事を始めて驚いたのは、魚の数です。イメージで言うと、30リットルのゴミ袋に、ネオンテトラが何千匹も入っているような感じです。魚は発泡スチロールの箱で届き、においは、そこまで強くありません。
輸送の間、箱の中の温度は、急にではなく、少しずつ下がっていきます。だから、届いたときは、かなりの低温になっていますが、意外と魚は元気です。
ベタのように、漢方薬の薬袋くらいの、小さな袋に入って届く魚もいます。長い輸送で、魚には大きな負担がかかっています。国によっては、輸送中の魚に薬が使われていることもあり、私が卸をしていたころは、お店に送る前に、まず薬を抜く作業をしていました。そのまま送ると、届いた先のお店で、魚が死んでしまうことがあるからです。
いちばん大変なのは、古代魚と大型魚
扱いがとくに大変だったのは、古代魚や大型魚です。淡水エイやアロワナをはじめ、とにかく大型の魚は、体が大きい分だけ、輸送でも飼育でも、気をつけることが多くなります。
死んで届いた魚は、お店によって対応が違った
輸送では、どうしても死んでしまう魚が出ます。お店に届いたときに死んでいた魚を「死着」と呼びますが、これの扱いが、お店によって大きく違いました。
総合ショップは、ノルマや社内のルールがあるので、1匹でも死着があると、必ず報告が来ます。その度に、私は赤い伝票を切っていました。一方、専門のショップは、何も言ってきません。
卸としては、情報を優先的にくれる専門ショップに、いい個体を選んで送りたくなります。
死着には、もうひとつ、独特な決まりがありました。高額な魚が死んで届いたときは、海外の出荷元から、本当に死んでいる証拠として、魚の頭に包丁を刺した状態で写真を撮って送るように求められたのです。こう求めてくるのは、海外の出荷元で、とくにバンコクからの便に多かったと記憶しています。
入荷したての魚に、無理をさせない
こうした長い輸送を終えた魚は、お店の水槽に入ったあとも、しばらくは疲れています。「入荷したての魚を、そのまま自分の水槽に入れると、負担が大きい」と私が言うのは、この輸送の大変さを知っているからです。魚を選ぶときは、入荷から少し日がたって、お店の水槽で落ち着いたものを選ぶと、安心して迎えられます。